脱水と血圧の急変に注意
冬の入浴時の事故
医学博士植地 貴弘さん

◆高齢者に多い入浴時の事故と主な原因
日本では、浴槽での溺死事故が年間およそ5,000人に上り、その約9割が65歳以上の高齢者です。また、欧米諸国と比べて浴槽内で発生する溺死の割合が高く、この背景には、日本の「全身浴」という入浴習慣と、熱い湯温、浴室と脱衣所の大きな温度差などの入浴環境が関係していると考えられています。
溺死を含む入浴中の事故死は、特に冬季(12月〜2月)に、年間発生件数の約半数が集中します。これは、暖かい部屋から寒い脱衣所への移動によって血圧が急変する、いわゆる「ヒートショック」が主な引き金となっていることを示しています。
◆入浴前の水分補給で脱水状態を防ぐ
もう一つの要因に、水圧と脱水による失神・溺死のリスクが挙げられます。溺死の多くは、意識を失って浴槽内に沈むことで発生しますが、この意識消失は、水圧と脱水が複合的に作用した結果と考えられています。さらに、熱い湯で汗をかき、長時間の入浴によって脱水が進むと、血管の拡張も相まって、浴槽から急に立ち上がった際に血液が下肢に一気に流れ落ち、脳への血流が一時的に途絶えます。その結果、気を失って浴槽内で溺れてしまうのです。
こうした危険な脱水状態を防ぐためには、入浴前の水分補給が重要です。入浴前には必ず十分な水分を摂りましょう。また、浴槽から出る際は手すりを使うなどして「ゆっくりと」動作することを心がけてください。

